約数と倍数の基本的な定理
約数や倍数は小学生の頃から親しんできた概念です.本記事で紹介する定理の中には,当たり前に使われる定理もあります.しかし,いざ証明するとなると意外と難しいものもありますので,じっくりと取り組んでみましょう.可能であれば,自力で証明を考えてみるのも良いでしょう.
約数と倍数の定義
整数,,が以下の等式,
を満たすとき,はで割り切れるといい,また,をの倍数,をの約数といいます.
公倍数と公約数
二つ以上の整数に共通な倍数を公倍数といいます.また,正の公倍数のうち最小のものを最小公倍数(Least Common Multiple)といいます.
二つ以上の整数に共通な約数を公約数といいます.また,公約数のうち最大のものを最大公約数(Greatest Common Divisor)といいます.
二つの整数,の最大公約数をと表すこともあります.例えば,といった表記です.
二つの整数の最大公約数がであるとき,互いに素であるといいます.
これ以降の節では,公倍数や公約数に関する重要な定理を証明します.
公倍数は最小公倍数の倍数である
定理1.
二つ以上の整数の任意の公倍数は,最小公倍数の倍数である.
証明.
整数の最小公倍数を,公倍数をとする.
定理を証明するためには,に関してとなることを示せば良い.を変形して,
右辺は,どちらも,倍数なので,左辺のもの倍数,つまりはの公倍数である.は最小公倍数であり,の範囲はであることから,である.
よって,二つ以上の整数の任意の公倍数は,最小公倍数の倍数である.
公約数は最大公約数の約数である
定理2.
二つ以上の整数の任意の公約数は,最大公約数の約数である.
証明.
整数の公約数が最大公約数の約数であることを示すために,との最小公倍数がであることを示す1がの約数である
と表すことができる
との最小公倍数がである.
との最小公倍数をとおく.
はの倍数であり,同時にの倍数であるため,はと公倍数である.は最小公倍数なので,定理1より,はの倍数である2逆にいうとはの約数である..同様に,はの倍数なので,はの公約数である.よって,
一方で,はとの公倍数なので,
よって,となり,との最小公倍数がであることが示された.
その他の重要な定理
定理3.
自然数,の最小公倍数を最大公約数をとすると,以下の等式が成り立つ.
証明.
は,との公倍数より,
はとの公倍数より,はの倍数である(定理1)ことから,
この式のにとを代入して,
つまり,
また,から
は,の公約数であるから,
とする.
,はで割り切れるため,,はで割り切れる3の左辺を,つまりで割り切れるので,右辺も割り切れる.も同様..
,とおいて,に代入すると,
はとの公倍数となるが,はとの最小公倍数より,
より,
また,より,
定理4.
互いに素である整数,に関して,がで割り切れるなら,はで割り切れる.
証明.
定理3より,最大公約数がなので,最小公倍数はである.
また,はの倍数なので,はとの公倍数である.したがって,定理1より,はの倍数であることが分かる.
故に,が整数になり,はで割り切れることが示された.
公約数に関する演習問題
演習問題.
であることを示せ.
(との最大公約数ととの最大公約数が等しいことを示せ)
余談
この記事は,高木貞治著『初等整数論講義 第2版』で学習した内容の再構築も兼ねています.
(定理の並びがほぼそのままかと思います)
また,最後の演習問題はユークリッドの互除法に繋がります.もちろん,ユークリッドの互除法の記事も書きます.間違いなく拡張ユークリッドの互除法もやりますし,当然プログラムも書きます.プログラミングにも繋がるなんて,令和7年度大学入試から必須となる「情報Ⅰ」の勉強もできてお得ですね.