集合が楽しくなるのは……

注意!
丸ごと高校の学習指導要領外の記事です!

高校数学で集合を勉強しますが,はっきり言って面白くなかったでしょう.
それもそのはず,集合が面白くなるのは,要素を無限に持つ無限集合を扱うようになってからなのです.

この記事では,いくつかの面白ポイントをカンタンに紹介したいと思います.

無限集合とは

要素が無限にある集合のことを無限集合といいます.例えば,「偶数全体の集合」「素数全体の集合」「無理数全体の集合」などが無限集合です.

無限集合の中でも,一部の頻出する集合には特別な記号を割り当てることがあり,「自然数全体の集合」「整数全体の集合」「有理数全体の集合」「実数全体の集合」「複素数全体の集合」はそれぞれ,\mathbb{N} \mathbb{Z} \mathbb{Q} \mathbb{R} \mathbb{C} と表されます.

無限集合に対して,要素が有限個の集合を有限集合といいます.

濃度の導入

さて,有限集合に対して要素の個数を表す記号を導入しましょう.記法は色々ありますが,ここでは集合A の要素の個数を|A|と書くことにします1数学Aで集合の要素の個数について学習します.そこでは,n(A)と表記されることが多いです..例えば,A = \{ 1,2,4 \} とすると|A|=3となります.

さて,有限集合に関しては,要素の個数を数えることができますが,無限集合については要素の個数を数えることができません.そこで,「要素の個数」を拡張して,無限集合にも使える「要素の個数」のようなものを考えます.

そもそも「要素の個数が等しい」とは,どういうことでしょうか?
この疑問を中心に概念を拡張します.

2つの集合A,Bの要素の個数が等しいとは,もちろん|A|=|B|となることですが,要素同士を1対1で対応させられること,それも余る要素や被る要素が生じないように1対1対応させられること2始集合や終集合や全単射といった単語を使わずに表現したかったのですが,難しいですね.,と言い換えることができます.例を出しましょう.A = \{ 0, 1, 2 \} B = \{ a,b,c \} のとき,0 a1 b2 cを対応させると,余りも被りもない1対1の対応となり,つまるところ2つの集合の要素の個数は等しい,ということです.

さて,本題の「要素の個数」の概念の拡張に戻りましょう.
2つの集合A,Bに関して,ABの要素を,余りも被りもなく1対1で対応させられるとき,集合Aと集合B濃度が等しいといいます.また,有限集合の場合,濃度と要素の個数は同じとなり,自然数で表されます.集合A = \{ 1,2,4 \} の濃度を同じく|A|で表すとすると,|A|=3となります.

さて,有限集合の濃度は自然数で表されますが,無限集合にも基準となる濃度を用意してやらねばなりません.自然数全体の集合の濃度を|\mathbb{N}|= \aleph_0と表します.ちなみに\aleph_0は「アレフ・ゼロ」と読み,\aleph(アレフ)はヘブライ文字です.

自然数と同じ濃度?

さて,自然数全体の集合の濃度に\aleph_0という値を用意しましたが,他の無限集合,\mathbb{Z} \mathbb{Q} \mathbb{R} の濃度はどうなるのでしょうか.実は,\mathbb{Z} \mathbb{Q} の濃度は,自然数全体の集合\mathbb{N} と同じく\aleph_0なのです!

濃度を「要素の個数」の延長だと考えると,あまり実感が湧かないかもしれません.そのようなときは,定義まで戻ってみましょう.2つの集合の要素を,余りも被りもなく1対1で対応させられるとき,集合の濃度が等しいというのでした.この定義から考えると,無限集合の場合,要素ひとつひとつに自然数で番号を振っていくこと(自然数でナンバリング)ができれば,\mathbb{N} と濃度が等しいと言えます3分からない人はじっくり考えてみて下さい.かけ足の説明となっていますので,集合論の専門書を読むのもひとつの手です.ネット上に転がっているどこかの大学の講義で使われたpdfファイルを読むのも良いでしょう.

整数に対して,自然数の番号を振っていくのは簡単です.0には 0 を,負の整数xには-2xを,正の整数xには2x-1を対応させると,余る要素や被る要素のない1対1の対応になります.

整数\cdots -3 -2 -1 0 1 2 3 \cdots
対応する自然数\cdots 6 4 2 0 1 3 5 \cdots

要素が無限にあるということのイメージを上手く掴む必要があります.

|\mathbb{Q}| = \aleph_0の証明は割愛します4後日,追記するかもしれません.

実数の濃度

最後に実数全体の集合の濃度|\mathbb{R}|について,|\mathbb{R}| \neq |\mathbb{N}| = \aleph_0となること,つまり,実数全体の集合と自然数全体の集合は,濃度が等しくないことを示したいと思います.

0以上1未満の実数を紙に順番に並べて書くことを考えます.並べて書き切れるのであれば,それに自然数の番号を付けることで,|\mathbb{R}| = |\mathbb{N}| = \aleph_0を示せるはずです.

ここで,次のような実数を考えます.
1番目に書かれた数の小数第一位の数に1を足した数を小数第一位に持ち,
2番目に書かれた数の小数第二位の数に1を足した数を小数第二位に持ち,
3番目に書かれた数の小数第三位の数に1を足した数を小数第三位に持ち,
4番目に書かれた数の小数第四位の数に1を足した数を小数第四位に持ち,
……
といった手順を無限に続けて得られる数を考えます.ただし,9に1を足した場合は0になることとします.

さて,こうして得られた数は,0以上1未満の実数を並べた紙のどこにあるかといいますと,どこにもありません.このことから,0以上1未満の実数を順番に並べた紙を作ることは不可能,つまり,自然数と1対1の対応を作ることができないことが分かります.よって|\mathbb{R}| \neq |\mathbb{N}| = \aleph_0が成り立ちます.

この証明方法のことをカントールの対角線論法といいます.

まとめ

さて,無限集合について,一部分だけを大雑把に説明しましたが,いかがだったでしょうか.集合論の面白さをほんの少しでも感じていただけたなら幸いです.

それにしても,高校の集合はもう少しどうにかならなかったのでしょうか.あれでは集合の面白さがちっとも伝わってこないように感じます.それに,\mathbb{N} \mathbb{Z} \mathbb{Q} \mathbb{R} \mathbb{C} などの記号を導入すれば,問題や解答をすっきり記述できる場面もあるはずです.

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