三角形の五心 〜性質と証明〜

本記事では,三角形の五心について解説を行います.
ここで書かれる命題の証明は,証明方法のほんの一例にすぎませんので,ぜひ自分なりの証明に挑戦してみてください.
また,中学校で習う定理・命題に関しましては,図を省略していることがあります.分かりにくい場合は,ぜひ自分で図を描いてみてください.

外心

外心の押さえておきたいポイントは以下の3点です.

  • 三角形の外接円の中心である.
  • 三角形の3つの辺の垂直二等分線は1点(外心)で交わる.
  • 外心から各頂点までの距離は等しい.

下の図のように外心が三角形の外にある場合もあります.

それでは先ほど書いた3つのポイントは一度忘れて,それぞれの性質が成り立つか確かめてみましょう.

重要な定理を証明するために,まずは垂直二等分線に関する以下の命題を証明します.

命題.
線分\mathrm{AB}と点\mathrm{P}が存在するとき,点\mathrm{P}が線分\mathrm{AB}の垂直二等分線上にあるならば,\mathrm{AP} = \mathrm{BP}が成り立つ.

証明.
線分\mathrm{AB}の中点を\mathrm{M}とする.
線分\mathrm{PM}は共通しており,中点なので\mathrm{AM} = \mathrm{BM}\angle \mathrm{PMA} = \angle \mathrm{PMB}より,2辺と間の角が等しいので,
\bigtriangleup \mathrm{AMP} \equiv \bigtriangleup \mathrm{BMP}
よって,
\mathrm{AP} = \mathrm{BP}

先ほどの命題の逆も成り立ちます.

命題.
線分\mathrm{AB}と点\mathrm{P}が存在するとき,\mathrm{AP} = \mathrm{BP}が成り立つならば,点\mathrm{P}が線分\mathrm{AB}の垂直二等分線上にある.

証明.
線分\mathrm{AB}の中点を\mathrm{M}とする.
\mathrm{P} = \mathrm{M}ならば,\mathrm{P}は垂直二等分線上の点である.
\mathrm{P} \neq \mathrm{M}の場合,
\mathrm{AP} = \mathrm{BP}\mathrm{AM} = \mathrm{BM}\mathrm{PM}は共通より,3辺が等しいため,
\bigtriangleup \mathrm{AMP} \equiv \bigtriangleup \mathrm{BMP}
となる.よって\angle \mathrm{AMP} = \angle \mathrm{BMP}かつ,\angle \mathrm{AMP} + \angle \mathrm{BMP} = 180^{\circ}より,\angle \mathrm{AMP} = \angle \mathrm{BMP}=90^{\circ}
つまり
\mathrm{AB} \perp \mathrm{PM}
したがって,点\mathrm{P}は垂直二等分線上の点である.

それでは,外心に関わる命題を証明していきましょう.

定理.1命題の中でも特に重要なものを「定理」と呼びます.
三角形の3辺の垂直二等分線は1点で交わる.

証明.
\bigtriangleup \mathrm{ABC}の辺\mathrm{AB}と辺\mathrm{BC}の垂直二等分線の交点を\mathrm{O}とする.辺\mathrm{AB}の中点を\mathrm{M},辺\mathrm{BC}の中点を\mathrm{M}^{\prime}とすると,
\bigtriangleup \mathrm{AMO} \equiv \bigtriangleup \mathrm{BMO}
\bigtriangleup \mathrm{BM^{\prime}O} \equiv \bigtriangleup \mathrm{CM^{\prime}O}
よって,
\mathrm{OA} = \mathrm{OB}
\mathrm{OB} = \mathrm{OC}
が成り立つ.したがって,
\mathrm{OA} = \mathrm{OC}
も成り立つ.よって,\mathrm{O}は辺\mathrm{CA}の垂直二等分線上にあり,3辺の垂直二等分線が1点で交わることが示された.

ちなみに\mathrm{OA} = \mathrm{OB} = \mathrm{OC}より,\mathrm{O}を中心とした\bigtriangleup \mathrm{ABC}の外接円が存在することが分かります.

内心

内心の押さえておきたいポイントは以下の3点です.

  • 三角形の内接円の中心である.
  • 三角形の3つの内角の二等分線は1点(内心)で交わる.
  • 内心から各辺までの距離は等しい.

外心のときと同様に,先ほど書いた3つのポイントは一度忘れて,それぞれの性質が成り立つか確かめてみましょう.

まずは外心のときと同様に,重要な定理につながる命題を証明します.

命題.
同一平面上に半直線\mathrm{OA}\mathrm{OB}が存在するとき,\angle \mathrm{AOB}の二等分線上の点\mathrm{P}から半直線\mathrm{OA}\mathrm{OB}への距離は等しい.

証明.
半直線\mathrm{OA}と点\mathrm{P}から\mathrm{OA}への垂線との交点を点\mathrm{D},同様に,半直線\mathrm{OB}と点\mathrm{P}から\mathrm{OB}への垂線との交点を点\mathrm{E}とする.
\mathrm{P}\angle \mathrm{AOB}の二等分線上にあるため,
\angle \mathrm{DOP} = \angle \mathrm{EOP}
また,辺\mathrm{OP}は共有しており,\angle \mathrm{ODP} = \angle \mathrm{OEP} = 90^{\circ}なので,
\bigtriangleup \mathrm{OPD} \equiv \bigtriangleup \mathrm{OPE}
よって,
\mathrm{PD} = \mathrm{PE}

少しだけ条件を追加すれば,その逆も成り立ちます.

命題.
\angle \mathrm{AOB}の内側に点\mathrm{P}があり,半直線\mathrm{OA}\mathrm{OB}との距離が等しいとき,点\mathrm{P}\angle \mathrm{AOB}の二等分線上に存在する.

証明.
半直線\mathrm{OA}と点\mathrm{P}から\mathrm{OA}への垂線との交点を点\mathrm{D},同様に,半直線\mathrm{OB}と点\mathrm{P}から\mathrm{OB}への垂線との交点を点\mathrm{E}とする.
\bigtriangleup \mathrm{OPD} \bigtriangleup \mathrm{OPE}において,三平方の定理より,
\mathrm{OD}^2 = \mathrm{OP}^2 - \mathrm{PD}^2
\mathrm{OE}^2 = \mathrm{OP}^2 - \mathrm{PE}^2
前提条件より\mathrm{PD} = \mathrm{PE}なので,
\mathrm{OD} = \mathrm{OE}
対応する3辺が等しいので,
\bigtriangleup \mathrm{OPD} \equiv \bigtriangleup \mathrm{OPE}
よって,
\angle \mathrm{POD} = \angle \mathrm{POE}
したがって,点\mathrm{P}\angle \mathrm{AOB}の二等分線上に存在する.

定理.
\bigtriangleup \mathrm{ABC}の3つの角の二等分線は1点で交わる.

証明.
\bigtriangleup \mathrm{ABC}\angle \mathrm{B}の二等分線と\angle \mathrm{C}の二等分線の交点を \mathrm{I}とする.\mathrm{I}から各辺へ垂線をおろし,辺\mathrm{AB}との交点を\mathrm{D},辺\mathrm{BC}との交点を\mathrm{E},辺\mathrm{AC}との交点を\mathrm{F}とする.
\bigtriangleup \mathrm{BDI} \equiv \bigtriangleup \mathrm{BEI}
\bigtriangleup \mathrm{CEI} \equiv \bigtriangleup \mathrm{CFI}
よって,
\mathrm{ID} = \mathrm{IE} = \mathrm{IF}
したがって,\angle \mathrm{A}の二等分線も点\mathrm{I}を通り,3つの角の二等分線は1点で交わる.

さらに,中心が\mathrm{I} で3点\mathrm{D}\mathrm{E}\mathrm{F}で接する\bigtriangleup \mathrm{ABC}の内接円が存在することが分かります.

この定理はチェバの定理の逆を使った証明もできます.チェバの定理の逆についてはこちらの記事をご覧ください.

重心

重心の押さえておきたいポイントは以下の2点です.

  • 三角形の3つの中線は1点(重心)で交わる.
  • 重心は各中線を2:1に内分する.

三角形の各頂点と対辺の中点を結ぶ線を中線といいます.

これからの証明で中点連結定理を使うので,簡単におさらいしたいと思います.

中点連結定理
\bigtriangleup \mathrm{ABC}において,辺 \mathrm{AB}の中点を \mathrm{M},辺 \mathrm{AC}の中点を \mathrm{N}とすると,以下の2つが成り立つ.
\mathrm{BC} /\!/ \mathrm{MN}
\mathrm{BC} = 2\mathrm{MN}

相似を使うと楽に証明ができそうですが,論理の堂々巡りを避けるために,平行四辺形と合同を利用して証明するのが筋の良いやり方です.中学校で学習済みだと思いますので,証明は省略します2下の図を見れば証明方法も分かると思います.

まずは,2つの中線の交点が中線を2:1に内分することを示します.

定理.
\bigtriangleup \mathrm{ABC}の中線の交点は,中線を2:1に内分する.

証明.
\mathrm{AB}の中点を \mathrm{F},辺 \mathrm{AC}の中点を \mathrm{E}とし,中線 \mathrm{BE}と中線 \mathrm{CF}の交点を \mathrm{G}とする.
中点連結定理より
\mathrm{BC} /\!/ \mathrm{EF}
\mathrm{BC} = 2\mathrm{EF}
このことから,\bigtriangleup \mathrm{BCG} \text{∽} \bigtriangleup \mathrm{EFG}であり,相似比は2 : 1である.よって,
\mathrm{CG} : \mathrm{FG} = \mathrm{BG} : \mathrm{EG} = 2 : 1

次に三角形の3つの中線が1点で交わることを証明します.

定理.
\bigtriangleup \mathrm{ABC}の3つの中線は1点で交わる.

証明.
\mathrm{AB}の中点を \mathrm{F},辺 \mathrm{AC}の中点を \mathrm{E},辺 \mathrm{BC}の中点を \mathrm{D}とし,中線 \mathrm{BE}と中線 \mathrm{CF}の交点を \mathrm{G},中線 \mathrm{AD}と中線 \mathrm{BE}の交点を \mathrm{G^{\prime}}とする.
中点連結定理より
\bigtriangleup \mathrm{ABG^{\prime}} \text{∽} \bigtriangleup \mathrm{DEG^{\prime}}であり,相似比は2 : 1である.よって,
\mathrm{BG^{\prime}} : \mathrm{EG^{\prime}} = 2 : 1
前の定理の証明より,\mathrm{BG} : \mathrm{EG} = 2 : 1 でもあるため,\mathrm{G} \mathrm{G^{\prime}}は同一の点である.よって,3つの中線は1点で交わる.

垂心

垂心の定義は以下の通りです.

各頂点から対辺への垂線は1点で交わり,その点を垂心という.

ここでは各頂点から対辺への垂線が1点で交わることを証明したいと思います.

定理.
\bigtriangleup \mathrm{ABC}の各頂点から対辺への垂線は1点で交わる.

証明.

頂点 \mathrm{A}から対辺 \mathrm{BC}におろした垂線と対辺との交点を \mathrm{D},頂点 \mathrm{B}から対辺 \mathrm{ AC}におろした垂線と対辺との交点を \mathrm{E},頂点 \mathrm{C}から対辺 \mathrm{AB}におろした垂線と対辺との交点を \mathrm{F}とする.
また,各頂点から,対辺に平行で対辺と同じ長さの線分を頂点の両側に引き,下の図のような\bigtriangleup \mathrm{PQR}を作る.
\bigtriangleup \mathrm{ABC}の垂線は\bigtriangleup \mathrm{PQR}の垂直二等分線となるため,その交点は\bigtriangleup \mathrm{PQR}の外心となる.よって3本の垂線は1点で交わる.

他にも,外接円を持つ四角形を利用する証明方法などがあります.

傍心

  • 1つの頂点の内角の二等分線と,他の2つの頂点の外角の二等分線は1点で交わる.この点を傍心という.
  • 傍心は3つある.
  • 傍心を中心とし,対辺と接し,他の2辺を延長した直線と接する円が描ける.この円のことを傍心円という.

図を描くと以下のようになります.少し雑な図ですみません.

最後になりますが,次の命題の証明を演習問題として残そうと思います.
ここまでの証明と流れは大きく変わりません.ここまでの内容を理解している人ならすぐに証明できるはずです.

定理.
\bigtriangleup \mathrm{ABC}において\angle \mathrm{A}の内角の二等分線と,\angle \mathrm{B}の外角の二等分線と,\angle \mathrm{C}の外角の二等分線は1点で交わる.

ヒント3傍心から対辺\mathrm{BC},半直線\mathrm{AB}\mathrm{AC}への垂線を引いてみましょう.そのあとは,合同な図形を利用すれば証明できます.

  

「勝手気ままに高校数学」シリーズ一覧へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA