常用対数の近似値を愚直な方法で求めてみた
本記事では常用対数の\log_{10} 2の近似値を,原始的な方法で,ほぼ手計算で求めてみたいと思います.
きっかけ
このような行為1愚行に至ったきっかけは,2011年の広島大学の入試問題を知ったことでした.きっかけとなった大問を以下に引用します.
(1)
\begin{aligned} \log_2 3 = \frac{m}{n} \end{aligned} を満たす自然数m,nは存在しないことを証明せよ.(2)
p,qを異なる自然数とするとき,p \log_2 3 と q \log_2 3 の小数部分は等しくないことを証明せよ.(3)
2011年度 広島大学
\log_2 3の値の小数第1位を求めよ.
(1)(2)は背理法で簡単に証明できます.
(1)
\begin{aligned} \log_2 3 = \frac{m}{n} \end{aligned} を満たす自然数があると仮定すると,
\begin{aligned} 2^{\frac{m}{n}} = 3 \end{aligned}
両辺を n 乗して,
\begin{aligned} 2^{m} = 3^{n} \end{aligned}
左辺は偶数,右辺は奇数となり矛盾する.
よって,条件を満たすm,nは存在しない.
(2)
p \log_2 3 と q \log_2 3 の小数部分が等しいと仮定する.p > qと仮定しても一般性を失わない2通常p > qと仮定して証明した場合,p < qと仮定した場合の証明も必要となる.しかし今回の証明では p と q を入れ替えるだけで,証明過程を変えることなく p < q と仮定した場合の証明が可能であるため,p > q の証明のみを行う.ため,p > qとすると,p - q は自然数となる.
さらに, p \log_2 3 - q \log_2 3 = nとおくと
\begin{aligned} p \log_2 3 - q \log_2 3 &= n \\ (p - q) \log_2 3 &= n \\ \log_2 3 &= \frac{n}{p - q} \end{aligned}
p - q,n ともに自然数であるため,(1)で証明した命題に反する.
よって,p \log_2 3 と q \log_2 3 の小数部分は等しくない.
(3)は 2^3 < 3^2であること38 < 9と,3^5 < 2^8であること4243 < 256を利用すれば, 以下のように求めることができます.
2^3 < 3^2より,
\begin{aligned}
\log_2 2^3 &< \log_2 3^2 \\
3 \log_2 2 &< 2 \log_2 3 \\
3 &< 2 \log_2 3 \\
\frac{3}{2} &< \log_2 3 \\
1.5 &< \log_2 3 \\
\end{aligned}
3^5 < 2^8より,
\begin{aligned}
\log_2 3^5 &< \log_2 2^8 \\
5 \log_2 3 &< 8 \log_2 2 \\
5 \log_2 3 &< 8 \\
\log_2 3 &< \frac{8}{5} \\
\log_2 3 &< 1.6 \\
\end{aligned}
2つの不等式を合わせて,
1.5 < \log_2 3 < 1.6
となるので,
小数第1位の値は5である.
これを見て思ったのです.
同様の方法で,他の対数の近似値も求められるのではないかと.
ならばこの方法でもっと近似値を求めてみたい!
\log_{10} 2が無理数であることの証明
ここでは常用対数の\log_{10} 2の近似値を求めたいと思います.
せっかくなので近似値を求める前に,\log_{10} 2が無理数であることを確認しておきましょう.
\begin{aligned} \log_{10} 2 = \frac{m}{n} \end{aligned} を満たす自然数があると仮定すると,
\begin{aligned} 10^{\frac{m}{n}} = 2 \end{aligned}
両辺を n 乗して,
\begin{aligned} 10^{m} &= 2^{n} \\ \left( 2 \cdot 5 \right)^{m} &= 2^{n} \\ \end{aligned}
左辺の素因数 5 の個数は m 個,右辺は 0 個であり,素因数分解の一意性に反するため矛盾.
よって,条件を満たすm,nは存在しない.
\log_{10} 2が無理数であることが分かりました.
\log_{10} 2の近似値を求める
無理数であることが分かりましたので,好きなだけ近似値を求めてみましょう.
まずは,2^3 < 10^1 より,
\begin{aligned}
\log_{10} 2^3 &< \log_{10} 10 \\
3 \log_{10} 2 &< 1 \\
\log_{10} 2 &< \frac{1}{3} \\
\log_{10} 2 &< 0.3333 \cdots \\
\end{aligned}
続いて,10^3 < 2^{10} より51000 < 1024
腐っても情報系の学生なので,2^{10} = 1024 は覚えています.,
\begin{aligned}
\log_{10} 10^3 &< \log_{10} 2^{10} \\
3 &< 10 \log_{10} 2 \\
\frac{3}{10} &< \log_{10} 2 \\
0.3 &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
ここまでの結果,0.3 < \log_{10} 2 < 0.3333 \cdots となり,整数部分が0,小数第1位が 3 であることが分かりました.
続いて,下からの評価 0.3 < \log_{10} 2 の左辺をもう少し大きな数字にできないか試してみます.
とりあえず2^{n}の n を 1 ずつ増やしていき,桁上がりしたときの n を使って,不等式を作ってみましょう.
10^{2} < 2^{7} より
\begin{aligned}
\log_{10} 10^{2} &< \log_{10} 2^{7} \\
\frac{2}{7} &< \log_{10} 2 \\
0.285 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{4} < 2^{14} より
\begin{aligned}
\frac{4}{14} &< \log_{10} 2 \\
0.285 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{5} < 2^{17} より
\begin{aligned}
\frac{5}{17} &< \log_{10} 2 \\
0.294 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{6} < 2^{20} より
\begin{aligned}
\frac{6}{20} &< \log_{10} 2 \\
0.3 &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
これ以降10^{3k} < 2^{10k}(k は整数) の形のものは飛ばします.
0.3 < \log_{10} 2 になると分かりきっていますからね.
10^{7} < 2^{24} より
\begin{aligned}
\frac{7}{24} &< \log_{10} 2 \\
0.2916 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{8} < 2^{27} より
\begin{aligned}
\frac{8}{27} &< \log_{10} 2 \\
0.296 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{10} < 2^{34} より
\begin{aligned}
\frac{10}{34} &< \log_{10} 2 \\
0.294 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
そろそろきついので電卓を使います(手計算とは).
10^{11} < 2^{37} より
\begin{aligned}
\frac{11}{37} &< \log_{10} 2 \\
0.297 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{13} < 2^{44} より
\begin{aligned}
\frac{13}{44} &< \log_{10} 2 \\
0.295 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{14} < 2^{47} より
\begin{aligned}
\frac{14}{47} &< \log_{10} 2 \\
0.297 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{16} < 2^{54} より
\begin{aligned}
\frac{16}{54} &< \log_{10} 2 \\
0.296 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{17} < 2^{57} より
\begin{aligned}
\frac{17}{57} &< \log_{10} 2 \\
0.298 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{19} < 2^{64} より
\begin{aligned}
\frac{19}{64} &< \log_{10} 2 \\
0.296875 &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{20} < 2^{67} より
\begin{aligned}
\frac{20}{67} &< \log_{10} 2 \\
0.298 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{22} < 2^{74} より
\begin{aligned}
\frac{22}{74} &< \log_{10} 2 \\
0.297 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{23} < 2^{77} より
\begin{aligned}
\frac{23}{77} &< \log_{10} 2 \\
0.298 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{25} < 2^{84} より
\begin{aligned}
\frac{25}{84} &< \log_{10} 2 \\
0.297 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{26} < 2^{87} より
\begin{aligned}
\frac{26}{87} &< \log_{10} 2 \\
0.298 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{28} < 2^{94} より
\begin{aligned}
\frac{28}{94} &< \log_{10} 2 \\
0.297 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{29} < 2^{97} より
\begin{aligned}
\frac{29}{97} &< \log_{10} 2 \\
0.298 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
10^{31} < 2^{103} より
\begin{aligned}
\frac{31}{103} &< \log_{10} 2 \\
0.3009 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
やりました!ようやく範囲を狭めることが出来ました!
続いて,\log_{10} 2 < 0.3333 \cdots のように上からおさえる値を小さくしていきましょう.
そのために,2^n < 10^m となる自然数 (n, m) の値を探してみましょう.
闇雲に探すのも手間ですので,10^3 と 2^{10} の値が近いことを利用して次のように探します.
手順1. \begin{aligned} n = 1 \end{aligned} とする.
手順2. \begin{aligned} \left (10^3 \right)^n < \left (2^{10} \right)^n \end{aligned} であり,10^3 と 2^{10} の値が近いことから, \begin{aligned} 2^{(10n-1)} < 10^{3n} \end{aligned} と予測し,その不等式が成り立つことを確認する.
手順3. \begin{aligned} 2^{(10n-1)} < 10^{3n} \end{aligned} を用いて,\log_{10} 2 を上からおさえる不等式を求める.
手順4.n の値を n+1 して,手順2に戻る.
\begin{aligned} 2^{(100-1)} < 10^{30} \end{aligned} までは以下の図の通り, 2^{(10n-1)} < 10^{3n} が成り立つことを確認済みです.
2^{9} < 10^{3} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2^9 &< \log_{10} 10^{3} \\
9 \log_{10} 2 &< 3 \log_{10} 10 \\
\log_{10} 2 &< \frac{3}{9} \\
\log_{10} 2 &< 0.3333 \cdots \\
\end{aligned}
2^{19} < 10^{6} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{6}{19} \\
\log_{10} 2 &< 0.3157 \cdots \\
\end{aligned}
2^{29} < 10^{9} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{9}{29} \\
\log_{10} 2 &< 0.3103 \cdots \\
\end{aligned}
2^{39} < 10^{12} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{12}{39} \\
\log_{10} 2 &< 0.3076 \cdots \\
\end{aligned}
2^{49} < 10^{15} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{15}{49} \\
\log_{10} 2 &< 0.3061 \cdots \\
\end{aligned}
2^{59} < 10^{18} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{18}{59} \\
\log_{10} 2 &< 0.3050 \cdots \\
\end{aligned}
2^{69} < 10^{21} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{21}{69} \\
\log_{10} 2 &< 0.3043 \cdots \\
\end{aligned}
2^{79} < 10^{24} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{24}{79} \\
\log_{10} 2 &< 0.3037 \cdots \\
\end{aligned}
2^{89} < 10^{27} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{27}{89} \\
\log_{10} 2 &< 0.3033 \cdots \\
\end{aligned}
2^{99} < 10^{30} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{30}{99} \\
\log_{10} 2 &< 0.3030 \cdots \\
\end{aligned}
上からおさえる値はかなり良い値になりました.
それでは,最後に今回の結果をまとめると,
10^{31} < 2^{103} より
\begin{aligned}
\frac{31}{103} &< \log_{10} 2 \\
0.3009 \cdots &< \log_{10} 2 \\
\end{aligned}
2^{99} < 10^{30} より
\begin{aligned}
\log_{10} 2 &< \frac{30}{99} \\
\log_{10} 2 &< 0.3030 \cdots \\
\end{aligned}
よって \log_{10} 2 は,整数部分が 0,小数第1位は 3,小数第2位の値は 0 であることが分かりました.
まとめ
今回はひたすら愚直に\log_{10} 2 の近似値を求めてみました.
\log_{10} 3 もやる予定でしたが,力尽きてしまいました.
筆算で気が狂いそうになります.
今回の方法よりも賢い近似値計算法は山ほどありますので,真似するのはやめましょう!
特に正確な近似値が欲しいときはダメ,ゼッタイ!
以上,デジャヴを感じる終わり方でした.
↓デジャヴの元↓