基本対称式を利用した問題
本記事では,「x+y=a,xy=bを満たすとき,x^3+y^3の値を求めよ」のような,基本対称式を利用した問題を解いていきます.
この記事はヤバい
対称式と基本対称式
文字式の中で,どの文字を入れ替えても元の式と変わらない式のことを対称式といいます.
例えば,(x+y)^2は,xとyを入れ替えても(y+x)^2=(x+y)^2と変化がありません.同様に(a+b+c)^3なども対称式です.
基本対称式とは,文字が2種類の場合,仮に文字をx,yとすると,x+yとxyのことを指します.文字が3種類(x,y,z)の場合は,x+y+zとxy+yz+zxとxyzが基本対称式となります.
対称式は基本対称式によって表すことができます1詳しい解説と証明の記事を執筆予定です..
問題
赤チャートの例題を1問引用したいと思います.
x+y+z= \sqrt{5} +2,xy+yz+zx=2 \sqrt{5}+1,xyz= 2を満たす実数x,y,zに対して,次の式の値を求めよ.
(中略)
(3) x^3+y^3+z^3
(省略)
チャート研究所『改訂版 チャート式®︎ 数学Ⅰ+A』(赤チャート)平成29年2月10日発行 第6刷 48ページ
普通の解答方針
このような問題では,与えられた式をどのように基本対称式だけで表すか,その式変形が重要なポイントとなります.
上記の問題の場合,例えば,x^3+y^3+z^3=(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)+3xyzのように変形します2この式変形には,x^3+y^3+z^3-3xyz=(x+y+z)(x^2+y^2+z^2-xy-yz-zx)という公式が必要です.もちろん,他の式変形もあるので,この公式を覚えていなくても問題を解くことはできます..これが一般的な方針となります.
この記事での方針
ふと思ったのです.対称式が基本対称式で表されることは,直感的には正しい気がします.しかし,証明もしていないのに,その性質に頼るのはいかがなものでしょう3そんなことを言い出したら,指数法則などはどうするつもりなのでしょうか.最低限を定義として与え,残りの指数法則を証明するべきという声が聞こえてきます.(指数法則は証明できるんです!まずは冪数が自然数で成り立つことを証明して,更に指数部分を整数(負の数もアリ)に拡張しても指数法則が成り立つことを証明して,有理数に拡張して,実数に拡張して!実数への拡張の証明は苦しいです,やりたくありません!複素数に拡張をして!といった感じに拡張しては拡張後も法則が成り立つことを証明することができます)この話題はまた追々,記事を書くかもしれませんし書かないかもしれません..
そこで,別の解法を採用することにしました.ここでは,x,y,zを直接求めたいと思います.
決して模範的でない解答
x+y+z= \sqrt{5} + 2 より,
x,y,zのうち少なくとも1つ以上の実数がa\sqrt{5} + b(a,bは有理数,a \neq 0)の形で表されることが分かります.
また,xyz = 2 より,
a\sqrt{5} + bの形で表される実数が2つ以上あることが分かります.(1つだとxyzの値に\sqrt{5}が残ってしまうため.また,3つともa\sqrt{5} + bである可能性は確認中.これがa\sqrt{3} + bの形であれば,\sqrt{3} + 2,\sqrt{3} - 1,\sqrt{3} - 1という組み合わせがあり,全て掛けると2になる.)
ここで,1つの実数は有理数,2つの実数は,a\sqrt{5} の形であると仮定する.
すると,有理数はx+y+z= \sqrt{5} + 2 より,2となります.
ここではx = 2 とします.(対称式なのでy = 2 やz = 2 で進めても問題ありません)
3つの基本対称式とその値より,次の連立方程式が求められます.
\begin{cases} y+z = \sqrt{5} \\ 2y+2z+yz=2\sqrt{5} + 1 \\ yz = 1 \end{cases}2番目の等式は,1番目の等式と3番目の等式から作れるため,実質,
\begin{cases}
y+z = \sqrt{5} \\
yz = 1
\end{cases}
となります.
xyz = 2 より,y \neq 0なので,
z = \frac{1}{y}をy +z = \sqrt{5}に代入して,
y + \frac{1}{y} = \sqrt{5}
両辺にyを掛けて,
y^2- \sqrt{5}y + 1 = 0
y = \frac{\sqrt{5} \pm 1}{2}
y = \frac{\sqrt{5} + 1}{2}のとき,z = \frac{\sqrt{5} - 1}{2}
y = \frac{\sqrt{5} - 1}{2}のとき,z = \frac{\sqrt{5} + 1}{2}
基本対称式の値も正しいので,
x^3 + y^3 + z^3に代入すると,8+ 2\sqrt{5}が求まります.
余談
できるだけ簡単な解答を作ろうとしましたが,大胆な仮定を置いてしまいました.真似してはいけません.
実は,x,y,zを求めるなら,赤チャートの同ページに書いてある通り,
(t-x)(t-y)(t-z)=0
t^3 -(x+y+z)t^2 + (xy + yz +zx)t -xyz = 0
これをtの方程式として解くのが良いでしょう.
遊びの提案(演習問題)
赤チャートの例題27でもxを求める解法ができますので,赤チャートを持っている人は試してみてください.
なんともお粗末な記事でしたが,これにて終わりたいと思います.