「情報」とは何か?
令和4年度から高校の科目に「情報Ⅰ」が追加されました.この科目は大学入学共通テストでも出題される科目であり,国立大学の入試には必須の科目となります.
ところで科目名にある「情報」とはいったい何でしょうか?ニュースや日常会話でもよく聞く単語ですが,正確な定義はなかなか難しいものです.
本記事では,「情報」という言葉について深堀したいと思います.
「情報」の語源
日本で「情報」という言葉が使われるようになったのは,1876年だと言われています.
日本語の「情報」は1876年(明治9年)に出版された『佛國歩兵陣中要務實地演習軌典』において、仏語 renseignement (案内、情報)の訳語として「敵情を報知する」意味で用いられたのが最初である。
情報 – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/情報(2022年8月13日閲覧)
その後,意味が派生していきました.日本語の「情報」と言う言葉にはさまざまな意味があります.情報学における頻出の「情報」の意味は以下の通りです.
文字・数字などの記号やシンボルの媒体によって伝達され、受け手において、状況に対する知識をもたらしたり、適切な判断を助けたりするもののこと。
情報 – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/情報(2022年8月13日閲覧)
データと情報と知識
情報とは何かを理解するにあたって,「データ」と「情報」と「知識」の違いがよく比較されます.教科書や教科書ガイドに書かれた定義を見てみましょう.
データ:実験,観察・観測,調査などで得られる事項や数値。
教科書ガイド 実教出版 版 高校情報Ⅰ Python 高校情報Ⅰ JavaScript 最新情報Ⅰ (文研出版) 4ページ(記載順を変更しています)
情報:物事や出来事の内容や様子を示し,行動や意思を決めるときの判断材料。
知識:分析された情報を問題解決に役立つように体系化されたもの。
この定義を読んだだけでは,よく分かりません.
正直なところ,この3つの語は明確に分けられない場合もあるのですが,例を挙げながら3つの違いを理解していきましょう.(間違いがあるかもしれませんので,じっくり考えながら読んでいただけると幸いです.)
まずはシンプルな例から見てみましょう.
年ごとの平均気温と大気中の温室効果のある物質の量に関する数値があります.これがデータです.
データを見ていると,ある温室効果ガスの量が増加すると平均気温も上がっていることが分かったとしましょう.これが情報です.この情報を見て,「へー」と思うだけで済ますのも,温室効果ガスの減少に取り組もうとするのも,因果関係について調査しようとするのも,情報を受け取った人間の自由です.「行動や意思を決めるときの判断材料」であることが分かります.「ある温室効果ガスの量が増加すると平均気温も上がっていること」は「物事や出来事の内容や様子を示し」の部分にあたります.データが情報になるときには,特定の目的,意味,必要性が加えられることがあります.また,主観が含まれる場合もあります.
ここに他の情報や知識などを加えて,温室効果ガスが平均気温の上昇の原因であることを突き止めます.さらに温度の上昇を抑えるために,どれだけ温室効果ガスを減らす必要があるかを計算し,体系化しました.これが知識になります.
次の例を見てみましょう.
この例では,車道の交通量を測ることを考えます.
この例では,各観測点での交通量の数値がデータとなります.
交通量の増減に注目したところ(必要性や目的の追加),交通量が増え,渋滞も増えていることが分かりました.これが情報です.
原因を探ったところ,観測した道路の周辺に新しい企業のオフィスやベッドタウンができたことが原因であることが分かりました.
今回はこの情報をもとに,バイパスを作ることで渋滞を解消することにしました.
さらに既存知識と組み合わせて,交通量が増加した場合,どのようなときに道路の拡張を行うべきか,どのようなときにバイパスを作るべきかを体系化しました.これが知識となります.
最後に情報学らしい例を挙げてみます.
趣味で運用しているサーバがあります.このサーバのアクセスログが今回のデータに当たります.
不正アクセスが心配になり,不正アクセスの有無を調べてみたところ,不正アクセスがありました.管理者権限のあるアカウントに不正アクセスされているようです.不正アクセスは全て海外からでした.これが情報です.
さらに調べてみると,管理者権限のあるアカウントのユーザ名が「admin」であり,パスワードも「admin」であることが原因であることが分かりました.「パスワードが簡単に推測可能であることは良くない」と言う知識が得られました.また,個人的な趣味で運用しているサーバであるため,海外からのアクセスを遮断しても問題ありません.そこで海外からアクセスできないようにしました.
この節の冒頭で,データ,情報,知識を分けることは難しいと言いました.
そこで,次のことを考えてみましょう.
アンケートの結果はデータでしょうか?情報でしょうか?
回答だけをみるとデータのような気もしますが,目的も必要性も無くアンケートをとることはありえるでしょうか?つまり,判断材料にするつもりもなくアンケートをとることはありえるのでしょうか?このことから,アンケートの結果自体が情報であると考えることができるでしょう.一方で,回答はデータであり,それをより判断しやすいようにまとめたもの(加工したもの)が情報であると考えることもできます.
情報社会とは
情報分野の言葉ではよくあることですが,言葉の定義が明確でない,もしくは問題点を含む定義である場合があります.「情報社会」もそのひとつです.
「情報社会」とは,さまざまなものが情報化し,その情報の価値に重きが置かれた社会だと考えれば良いでしょう.産業革命以降の産業社会の延長であり特筆すべきことでないと唱える人もいるので,この定義も万能なものではありません.
「情報社会」という言葉が生まれた背景には,個人が大量のデジタル情報に触れられるようになったことが挙げられます.テレビやラジオといったメディアにはじまり,現在では個人用のデバイスが普及しています.元々,軍事用だったコンピュータやインターネットでしたが,現在では,パーソナルコンピュータやスマートフォンの普及により,誰でも利用できるものになりました.
情報の特性
情報には,物質と異なる「情報の特性」が3つあります.
・残存性:情報が消えずに残る性質。記憶、記録。
・複製性:簡単に複製できる性質。
・伝播性:情報が伝わりやすく、広まりやすい性質。
教科書ガイド 実教出版 版 高校情報Ⅰ Python 高校情報Ⅰ JavaScript 最新情報Ⅰ (文研出版) 5ページ
これら情報の性質の良い点と問題点を次の節で考えてみましょう.
情報の特性の良い点と問題点
情報の特性の良い点と問題点をまとめてみました.
他にも良い点や問題点があるので考えてみましょう.また,具体例も考えてみてください.
残存性の良い点
・口頭で伝えた情報も記憶に残る.
・さまざまなものがデジタル情報として記録される.
(例)議会の議事録,ウェブアーカイブ1過去のWebサイトの内容が記録されている試しにこのサイトのホームページ(https://mltanaka.com)をこちらのウェブアーカイブで検索してみましょう.「ふかひれぐらたん研究所」になる前の姿が記録されています.など.
残存性の問題点
・デマや間違いを含む情報も残り続ける.
・流出した個人情報や問題行動の証拠写真2コンビニアイスの冷凍庫に入る写真などが一時期問題になりました.なども残り続ける.
複製性の良い点
・同じ情報を複数の人に見せることができる.
(例)チラシやプリント3大学などでは要点をまとめたプリントのことを,フランス語を使ってレジュメと呼びます.常識のように使われる時があるので知っておきましょう.の配布.
複製性の問題点
・著作物の違法コピー
(例)漫画の違法アップロード4漫画村などが問題になりました.,DVDなどの違法コピー
伝播性の良い点
・メディアやSNSによる重要情報の拡散
(例)災害情報など
伝播性の問題点
・フェイクニュースの拡散
まとめ
本記事では,情報とは何かについてまとめました.
「情報Ⅰ」では,上述したような情報やデータの性質の他に,コンピュータを扱った情報処理や,コミュニケーションについても学習します.