数学が楽しくない高校生へ
結論からお話します.
数学を楽しむために,次の3つのことを提案します.
ひとつ.直近の定期試験の勉強を頑張ってみましょう.一度でいいので,数学のテストで高い点数をとってみましょう.
ふたつ.試験や宿題(課題)のことを忘れて,自由に数学をしてみましょう.
みっつ.背伸びをして難しい問題に取り組んでみましょう.ひたすら考え続けることが肝要です.
自分語りが多い記事になってしまいましたので,苦手な人はブラウザバックをお願いします.
目次
なぜ数学を楽しめないのだろうか
私は全ての学生に,数学を楽しんで欲しいと考えています.しかし現実には,数学は好き嫌いがハッキリと分かれる科目である,といった印象です.数学嫌いの人の中には,数式を見ただけでどんよりと暗い気持ちになる人もいるでしょう.
楽しめない科目があることは理解できます.私自身,高校時代は,英語と古典が好きではない科目でした.好きでもないことでしたから,楽しむなんてアリエナイという感覚という思いを,今でも覚えています.
それでは,なぜ数学を楽しめない学生がいるのでしょうか.なぜ数学を嫌いになってしまうのでしょうか.これらのことを考えてみましょう.
まずは筆者自身の経験を元に考えてみます.私は英語と古典が好きではありませんでしたが,それはなぜでしょうか.第一印象が悪くて,興味を持てなかった気がします.その結果,試験で悪い成績をとってしまいます.試験の点数が低いと,なんだか苦手な気がして,余計に勉強時間が減ります.そうなると次の試験ではもっと悪い成績になって,ますます苦手意識が強くなり,勉強しなくなって…….こういったループに陥っていたと思います.こんな中で楽しめるはずもありません.
しかし現在では,英語も古典も楽しんで勉強しています.英語で書かれた論文を読んだり,分厚い英単語集を何度も暗唱したり,平安時代から鎌倉時代にかけて書かれた物語を読んだりといったことを楽しんでいるのです.
その一方で,数学はどうだったかというと,私は高校時代は数学をほとんど勉強しませんでした.それでも,数学は好きな科目でした.そして,数学を楽しんでいました.1年の頃の数学の試験は低い点数ばかりだったと記憶しています.高校2年の頃には試験前に少し勉強するようになり,ある程度良い成績を取れていました.
高校時代に楽しめなかった科目,好きではなかった科目について,過去の自分を振り返って思い当たることは,第一印象が悪かった,成功体験が少なかった,そもそも勉強時間が少なかったという共通点があります.
しかし,数学に関しても,高校数学の第一印象は最悪でしたし,成功体験や勉強時間が少ない時期もありました.一概に上記の共通点だけで楽しめるかどうかが決まるとは考えにくいです.
これらのことを踏まえた上で,先人たちの知恵を借りながら,数学を楽しむための方法を3つほど提案しようと思います.
提案1.定期試験で良い試験をとってみよう
ひとつ目の提案は,なんとかして成功体験を作ってしまおうということです.一度でもうまくいった経験をすれば,過剰に苦手意識を持つことがなくなります.数学を楽しむゆとりも生まれることでしょう.
そのための方法として,直近の定期試験で頑張って,良い成績をとってみるというのはいかがでしょうか.定期試験が難しければ,小テストや演習問題でも構いません.人より上手くできたという経験は,苦手意識をなくす上で重要だと思います.
ただし,この方法はかなり荒っぽいやり方です.好きでもない科目の勉強のために,時間を割かなければなりません.
このような状況で取れる選択肢は2つ.
ひとつ目の選択肢は,生まれ変わったかのようにガッツリと勉強に取り組むことです.覚悟と勇気,そして真剣さと根性がいる大変な行動です.上手く勉強を続けられれば,結果はついてくるでしょう.一方で勉強に取り組めなかった時があれば,ますます勉強が苦手になる可能性もありますし,自信を失くす可能性のある危険な方法です.
ふたつ目の選択肢は,毎日確実にこなせる簡単な目標から始める方法です.毎日数学の問題を一問解く(宿題や課題を除く)といった目標や,机に向かって数学の参考書を開くといった簡単な目標が望ましいです.人間は一度やり始めたら止まらない性質があります.しかし,このやり始めるということが難しいのです.まして好きでもない科目の勉強,始めることがどれだけ高いハードルでしょうか.なので,「行動を始める」ハードルを思いっきり下げてみましょう.「机に向かって本を開くだけでOKとか舐めてるのか?」と思われるかもしれませんが,勉強を始めないよりはマシです.それに始めてみれば,意外と行動は続きます.
私自身,このWebサイトの更新が滞る日は「アイデアが次々湧いてくるけれど,何も書きたくないとき」です1体調不良の日は除きます.このサイトは私の体調不良により,長期の更新停止を繰り返しています..アイデアを一気に形にしないといけない気分になりますが,それが億劫なのです.そのような時でも,とりあえず1行書き始めたら,もう1行もう1行と進み,ひとつの記事を作る過程の半分くらいは一気に進んでしまうものです.
勉強に関しても同様で,とりあえず一問解いてみたら,その一問を深く理解したくなったり,次の問題を解いてみたくなったりします.
以上,試験でいい点数をとって成功体験を作ろうという提案と,その実現に向けた2つの具体的な行動方法を説明しました.
提案2.試験や宿題から開放された状態になろう
ふたつ目の提案は,試験や宿題のことを忘れて自由に数学をする時間を作ってみようというものです.
皆さんは,ゲームや漫画に夢中になっている小学生を,ゲーム嫌い,漫画嫌いにさせる簡単な方法を知っていますか.宿題よりも先に遊んでいたら叱る?いっそのこと禁止にする?いいえ,叱られたり,禁止されたりしても,子供の夢中というものは止まりません.そんな夢中を簡単に終わらせる残酷で簡単な方法,それはゲームや漫画に堅苦しい課題をつけてやればいいのです.ゲームや漫画の感想文を毎日書かせる,ゲームや漫画から学んだことを毎日書かせる,といった具合です.ポイントは,堅苦しさと強制です.こうすることで簡単に夢中な世界から醒めてしまうことでしょう.
ここで,高校生の勉強に話を戻してみましょう.皆さんは,普段勉強をするとき,何を優先しますか.期限の近い宿題や次の日の予習,試験のための勉強ではないでしょうか.それらの勉強のモチベーションが高ければ良いのですが2絶対に進学したい大学があるなどの何かしらの理由があって意欲が高い場合など,そうでない場合,そういった勉強はほとんど強制的にやらされていますよね.自由に勉強していると感じない人も多いでしょう.そう,皆さんの普段の勉強は堅苦しさがあり,半ば強制されているといっても過言ではありません.そのような状況で勉強を楽しめるのでしょうか.夢中になれるのでしょうか.ほとんどの人にとっては難しいでしょう.
そこで休日などにまとまった時間を作り,好き勝手に勉強をしてみてください!好奇心の赴くまま,試験や宿題には関係ないけどやってみたかったことが出てくると思います.パスカルの三角形をひたすら書き続けて,そこから面白い法則を見つけるのも良いでしょう.なんとなく開平計算をしてみるのも良いでしょう.三桁までの素数表を作ってみるのも面白いかもしれません.
数学をする気になれなかったら別の科目を好き勝手に勉強しても良いでしょう.強制されることなく自由に勉強すると決めた時間なのに,数学だけと決めるのもおかしな話です.
再び筆者の話に戻りますが,高校1年の間,数学で良い成績を取れなかったのにも関わらず,数学が嫌いになったことはありませんし,数学は面白い科目だと思い続けていました.
私の場合,毎日が自由な勉強の日でした.宿題の提出は期限を気にせず気分で提出していましたし,授業中はパスカルの三角形をずっと書いていました.当時は音楽大学を目指していたので,授業中に堂々と隠すことなく,楽典3音楽の理論の勉強をしていたこともあります.オープン内職です.2年次には,試験前にそこそこ勉強していましたが,やはり宿題は好きなときに提出していました4基本遅れて提出するか,未提出ですが,たまに先に提出することもありました..かと思えば授業で取り上げられた「ゼノンのパラドックス」について1日中考えていたこともあります.まさに,自由すぎる勉強.ゆえに数学を楽しみ続けることができたのでしょう.一方で,古典と英語は予習が必須の授業形式で,その予習は半ば強制の勉強ですから,ちっとも面白いと思わなかったのもうなずけます.5私の場合は,数学の前例があるので,古典や英語で授業形式を無視して好き勝手に勉強しなかった自分の責任とも言えます.だってなんか勝手に指名されて「日本語訳をしろ」って言われるし,内職してても怒られるし,いやもう教師の問題だわこれ
ここで勘違いして欲しくないのですが,これを真似しろと勧めているわけではありません.自由な勉強時間の作り方,その過ごし方は,人それぞれですし,節度ある生活をしないとバランスを崩す人もいるわけです.人それぞれ,これが重要.
この節の最後に,数学者岡潔6おか きよし.数学者.多変数解析関数論において3つの難題を1人で解決した人物.あまりに大きな業績のため,「Oka Kiyoshi」は数学者グループの名前ではないかと疑われたこともあった.の言葉を贈って締めたいと思います.
人は極端になにかをやれば、必ず好きになるという性質をもっています。好きにならぬのがむしろ不思議です。好きでやるのじゃない、ただ試験目当てに勉強するというような仕方は、人本来の道じゃないから、むしろそのほうがむずかしい。
岡潔,小林秀雄(2010)人間の建設 新潮文庫.
提案3.難しい問題に取り組んでみよう
みっつ目の提案は,背伸びして難しい問題や先のことを学んでみようというものです.
先ほど引用しました『人間の建設』にて,小林秀雄が次のようなことを言っています.
例えば野球の選手がだんだんむずかしい球を打てる。やさしい球を打ってもつまらないですよ。(中略)むずかしければむずかしいほど面白いということは、誰にでもわかることですよ。そういう教育をしなければいけないとぼくは思う。
岡潔,小林秀雄(2010)人間の建設 新潮文庫.
試験を意識した勉強法では,数学の初めて見る問題で,解き方の見当もつかないという場合,さっさと模範解答を見てしまうのが効率的だという風潮があります.実際,試験対策だけを考えるのなら効率的でしょうね.しかし,その勉強方法で自信が付きますか.面白いでしょうか.なにも効率的な勉強方法を完全に否定しようとしているわけではありません.たまには,解答もヒントも見ずに,じっくり解法を考えて,悩み抜いてみることを提案しているのです.難関大学で出されてもおかしくない難問を,なんのヒントも見ずに解き切ったら,とても爽快感があると思いませんか.答えに辿り着く解法を見つけたときに喜びが訪れると思いませんか.
難しい問題を解くと楽しいです.数学の面白さに目覚めると思います.また,ひとつ目の提案と被りますが,難問を自力で解いたということが成功体験にもなります.自身もつくでしょう.それに,もし答えが合っていなくとも,考え続ける力が確実に養われます.
また,まだ学校で習っていない分野について勉強することもオススメです.独学の力が付きますし,一度自分で学習したところを,授業や宿題で何度も繰り返すことで,理解が深まっていくこともあるでしょう.他の人より早く学び始めたことで,その分野の試験で良い点が取れるかもしれません.それもまた,ひとつの成功体験となることでしょう.
思いっきり先の内容を学習してみるのも良いかもしれません.これはふたつ目の提案とも重なることですが,自由に学び,勉強することは楽しいものです.数学は積み重ねの学問と言われているため,先の内容の学習に不安がある人も居るかもしれません,それもある程度の範囲なら問題ないと考えています.気になる人は,次の節を読んでみてください.
数学は積み重ねって本当?
数学は積み重ねという言葉が嫌いです.ある意味では正しいのですが,過剰な意味で使われすぎていると感じます.
例えば,高校の微積分を学ぶにあたって,小学校レベルの四則演算ができなかったり,変数を文字で表すことが分からなかったりするのは大問題です.しかし,複素数を学んでいなかったり,判別式が分からないからといって,微積分を学ぶにあたって問題が起こるでしょうか.問題ないはずです.もし万が一,分からないことがあったとしても,そのとき,分からないことを学べばいいのです.
度々になりますが,私の経験を話そうと思います.私は高校1年次,数学Ⅰの三角比の授業を全て寝ていました.宿題もほとんどやらず,試験前の勉強なんて全くやっていません.もちろん試験の結果はボロボロです.しかし,2年次に数学Ⅱの三角関数の授業を真面目に聞いて,試験前に多少の勉強をしました.結果は,試験はほぼ満点でした.三角関数が三角比の拡張であること,そこで三角比のベースには直角三角形の相似があることを知りました.試験には三角関数と2次方程式の融合問題が出ましたが,そのとき,2次関数の最大値,最小値の求め方,判別式の利用を理解しました.関連する数単元分の取りこぼしなんて,少しの時間があれば回収できるものです.
それと私は,高校時代に自由奔放で数学の勉強を真面目にせず,大学に入ってから真面目に数学を学んでいます.とりあえず計算できれば良しという数学も学びましたし,具体的な現象との繋がりやイメージが必要な数学も学びました.数学科で学ぶような厳密な数学も,数学科出身の教員とのマンツーマンのゼミ形式(私が数学の本を読んできて,その内容を教員の前で発表するという形式)で勉強しています.ハッキリと言います.大学に入ってから数学を勉強しているときに,もっと高校で数学を勉強しておけばと後悔したことは一度もありません.
根本的な積み上げ損ないでもない限り,頭を使えばなんとかヤリクリ出来ます.むしろ先を見てからの方が,前の単元のことがよく理解できる,といったこともあります.もちろん個人差もあるでしょうから,絶対とは言えませんが.
多少の学び残しは問題にならないことの方が多いと思います.もし万が一,積み上げ損なった大きなものがあった場合は,そこまで戻ればいいのです.過剰に「積み重ね」だの「積み上げ」だのと言って,学び残しのある人の意欲を挫くことの方が間違いなのです.
まとめ
この記事では,数学を楽しむための3つの提案をしました.
1人でも多くの人に数学の楽しさを知ってほしいと願っています.