約数と倍数の基本的な定理
約数や倍数は小学生の頃から親しんできた概念です.本記事で紹介する定理の中には,当たり前に使われる定理もあります.しかし,いざ証明するとなると意外と難しいものもありますので,じっくりと取り組んでみましょう.可能であれば,自力で証明を考えてみるのも良いでしょう.
約数と倍数の定義
整数a,b,qが以下の等式,
a = bq (b \neq 0)
を満たすとき,aはbで割り切れるといい,また,aをbの倍数,bをaの約数といいます.
公倍数と公約数
二つ以上の整数に共通な倍数を公倍数といいます.また,正の公倍数のうち最小のものを最小公倍数(Least Common Multiple)といいます.
二つ以上の整数に共通な約数を公約数といいます.また,公約数のうち最大のものを最大公約数(Greatest Common Divisor)といいます.
二つの整数a,bの最大公約数を(a,b)と表すこともあります.例えば,(12,18) = 6といった表記です.
二つの整数の最大公約数が1であるとき,互いに素であるといいます.
これ以降の節では,公倍数や公約数に関する重要な定理を証明します.
公倍数は最小公倍数の倍数である
定理1.
二つ以上の整数の任意の公倍数は,最小公倍数の倍数である.
証明.
整数a, b, c, \cdots \cdots の最小公倍数をl,公倍数をmとする.
定理を証明するためには,m=lq+r (0 \leqq r < l)に関してr=0となることを示せば良い.m=lq+rを変形して,
r = m - lq
右辺m - lqはm,lどちらも,a,b,c, \cdots \cdots倍数なので,左辺のr もa,b,c, \cdots \cdotsの倍数,つまりrはa,b,c, \cdots \cdotsの公倍数である.lは最小公倍数であり,rの範囲は0 \leqq r < lであることから,r = 0である.
よって,二つ以上の整数の任意の公倍数は,最小公倍数の倍数である.
公約数は最大公約数の約数である
定理2.
二つ以上の整数の任意の公約数は,最大公約数の約数である.
証明.
整数a, b, c, \cdots \cdots の公約数dが最大公約数mの約数であることを示すために,dとmの最小公倍数がmであることを示す1dがmの約数である
\Leftrightarrow m=dqと表すことができる
\Leftrightarrow dとmの最小公倍数がmである.
dとmの最小公倍数をlとおく.
aはdの倍数であり,同時にmの倍数であるため,aはdとm公倍数である.lは最小公倍数なので,定理1より,aはlの倍数である2逆にいうとlはaの約数である..同様に, b, c, \cdots \cdots はlの倍数なので,lはa, b, c, \cdots \cdots の公約数である.よって,
l \leqq m
一方で,lはdとmの公倍数なので,
l \geqq m
よって,l = mとなり,dとmの最小公倍数がmであることが示された.
その他の重要な定理
定理3.
自然数a,bの最小公倍数lを最大公約数mをとすると,以下の等式が成り立つ.
ab = lm
証明.
lは,aとbの公倍数より,
l = ab^{\prime} = a^{\prime}b
abはaとbの公倍数より,abはlの倍数である(定理1)ことから,
ab = dl
この式のlにl = ab^{\prime}とl = a^{\prime}bを代入して,
ab = dab^{\prime}
つまり,
b = db^{\prime}
また,ab = da^{\prime}bから
a = da^{\prime}
dはa,bの公約数であるから,
m=deとする.
a,bはmで割り切れるため,a^{\prime},b^{\prime}はeで割り切れる3a = da^{\prime}の左辺をm,つまりdeで割り切れるので,右辺も割り切れる.b = db^{\prime}も同様..
a^{\prime} = ea^{\prime \prime},b^{\prime} = eb^{\prime \prime}とおいて,l = ab^{\prime} = a^{\prime}bに代入すると,
l = aeb^{\prime \prime} = ea^{\prime \prime}b
\frac{l}{e} = ab^{\prime \prime} = a^{\prime \prime}b
\frac{l}{e}はaとbの公倍数となるが,lはaとbの最小公倍数より,
e = 1
m=deより,m=d
また,ab = dlより,ab = lm
定理4.
互いに素である整数a,bに関して,bcがaで割り切れるなら,cはaで割り切れる.
証明.
定理3より,最大公約数が1なので,最小公倍数はabである.
また,bcはaの倍数なので,bcはaとbの公倍数である.したがって,定理1より,bcはabの倍数であることが分かる.
故に,\frac{bc}{ab} = \frac{c}{a}が整数になり,cはaで割り切れることが示された.
公約数に関する演習問題
演習問題.
(a,b) = (a-bq,b)であることを示せ.
(aとbの最大公約数とa-bqとbの最大公約数が等しいことを示せ)
余談
この記事は,高木貞治著『初等整数論講義 第2版』で学習した内容の再構築も兼ねています.
(定理の並びがほぼそのままかと思います)
また,最後の演習問題はユークリッドの互除法に繋がります.もちろん,ユークリッドの互除法の記事も書きます.間違いなく拡張ユークリッドの互除法もやりますし,当然プログラムも書きます.プログラミングにも繋がるなんて,令和7年度大学入試から必須となる「情報Ⅰ」の勉強もできてお得ですね.