総和Σと総乗Π
今後の記事のために,総和の記号\sumと総乗の記号\prodを導入したいと思います.なお総和の記号\sumは,数学Bの数列にて登場します.
総和の導入
n個のデータの平均を求めるときなど,添字のついた文字1x_1, x_2, x_3のような.をすべて足すことが求められる場合があります.n個のデータの平均を高校の教科書どおりに書くと,
\frac{1}{2} \left( x_1 + x_2 + x_3 + \cdots + x_{n-1} + x_n \right)
となります.これを総和記号を使うと,
\frac{1}{2} \sum_{i=1}^n x_i
と書くことができます.短くなっている上に,省略を表す3点リーダを使う必要がなくなりました.
ちなみに記号\sumは,sumの頭文字sに対応するギリシャ文字のシグマ(大文字)です.
総和記号Σの使い方
総和記号の基本的な使い方から説明します.
\sum_{i=1}^n (式)
この表記では,iの値を1から始め,iの値がnになるまで1ずつ増やしながら,それぞれのiの値に対応する式を足し合わせます.最もシンプルなのは,以下の式です.
\sum_{i=1}^n x_i = x_1+x_2+ \cdots + x_n
具体的な数字を入れてみます.ちなみに記号iは別の記号を用いても問題ありません.
x_1 = 1,x_2 = 4,x_3 = 2とする.\\ \sum_{i=1}^3 x_i = 1 + 4 + 2 =7 \\ \sum_{j=1}^3 x_j = 1 + 4 + 2 =7 \\ \sum_{k=1}^3 2x_k = 2 + 8 + 4 = 14
添字付きの記号を使わずに直書きもできます.
\sum_{n=1}^3 n = 1 + 2 + 3 = 6 \\ \sum_{n=1}^3 \frac{n}{2} = \frac{1}{2} + \frac{2}{2} + \frac{3}{2} = 3
さらに,記号を無視することも可能です.
\sum_{n=1}^3 a = a + a + a = 3a
無限に足し合わせることもできます2以下の等式が気になった人は,リーマンゼータ関数やバーゼル問題で検索してみてください..
\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2} = \frac{1}{1} + \frac{1}{4} + \cdots =\frac{\pi^2}{6}
さらに,有限集合または可算無限集合に対して,以下のような書き方もできます.
A = \{2,4,6\}とする.\\ \sum_{a \in A}3a = 3 \cdot 2 + 3 \cdot 4 + 3 \cdot 6 = 36
総和の性質
総和には以下の法則が成り立ちます.
\sum_{i=1}^n kx_i = k\sum_{i=1}^n x_i
\sum_{i=1}^n(x_i + y_i) = \sum_{i=1}^n x_i + \sum_{i=1}^n y_i
\sum_{i=1}^n a = na
もちろん,3つを組み合わせて,以下のような等式も成り立ちます.
\sum_{i=1}^n k(a + x_i) = kna + k\sum_{i=1}^n x_i
これらの性質を使うと便利になる一例が,次の命題の証明です.
命題.
n個のデータx_1, x_2 , \cdots x_nの平均を\overline{x},分散をs^2,n個のデータの2乗の平均を\overline{x^2}とするとき,以下の等式が成り立つ.
s^2 = \overline{x^2} - \left( \overline{x} \right)^2
証明.
\begin{aligned}
s^2 &= \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n (x_i - \overline{x})^2 \\
&= \frac{1}{n} \left\{ \sum_{i=1}^n x_i^2 -2 \sum_{i=1}^n \overline{x} x_i + \sum_{i=1}^n (\overline{x})^2 \right\} \\
&= \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i^2 - 2\overline{x} \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i + \frac{1}{n} n(\overline{x})^2 \\
&= \overline{x^2} -2\left( \overline{x} \right)^2 + \left( \overline{x} \right)^2 \\
&= \overline{x^2} -\left( \overline{x} \right)^2
\end{aligned}
たまに使う重要な等式をもうひとつ示します.
\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^nx_i y_j =\sum_{i=1}^n x_i\sum_{j=1}^n y_j
x_1y_1 + x_1y_2 + x_2y_1 + x_2y_2 + x_3y_1 + x_3y_2= (x_1 + x_2 + x_3)(y_1 + y_2)のような具体例を考えると,納得できるかと思います.こちらを用いて,次のような問題に対してシンプルな解答を書くことができます.
問題.
720の正の約数を全て足した値を計算せよ.
解答例.
720を素因数分解すると,720 = 2^4 \cdot 3^2 \cdot 5となるので,約数の和Sは,
\begin{aligned}
S &= \sum_{i=0}^4\sum_{j=0}^2\sum_{k=0}^1 2^i 3^j 5^k \\
&= \sum_{i=0}^4 2^i \sum_{j=0}^2 3^j \sum_{k=0}^1 5^k \\
&= (1+2+4+8+16)(1+3+9)(1+5) \\
&= 31 \cdot 13 \cdot 6 \\
&= 2418
\end{aligned}
総乗の導入
乗算の場合も同様に,総乗があります.
\prod_{i=1}^n x_i = x_1 \cdot x_2 \cdot x_3 \cdot \cdots \cdot x_{n-1} \cdot x_n
記号\prodは,productの頭文字pに対応するギリシャ文字のパイ(大文字)です.
高校数学で目にすることは少ないと思いますが,今後の記事の布石として紹介だけしておきます.